“声をかけても動かない”〜“わかっているのに動けない”子どもの実は深い理由〜
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“声をかけても動かない”〜“わかっているのに動けない”子どもの実は深い理由〜

2025年10月21日 更新:2026年5月18日

「何度言っても動かない…」というもどかしさ

「早く着替えてね」と言っても、なかなか動かない。
「片づけよう」と声をかけても、ぼーっとしたまま。
「ごはんだよ!」と何度呼んでも反応がない。

そんな子どもの姿に、つい「聞こえてる?」「どうして動かないの?」と焦ってしまうことはありませんか?
保護者の方の中には、「わかってるのに動かないなんて、やる気がないのかな」と感じてしまう方もいるかもしれません。

でも実は、「動けない」には、“わかっていない”とも“やる気がない”とも違う理由があるのです。
それは、脳の発達と「行動を始める力(実行機能)」が関係しています。

この記事では、“動かない子”に見える行動の裏側にある発達のメカニズムと、
家庭でできる具体的なサポート・声かけの工夫を紹介します。

第1章:「わかっているのに動けない」ってどういうこと?

行動には“3つのステップ”がある

子どもが何かを「する」ためには、次の3つのステップが必要です。

  1. 言葉や状況を理解する(理解)
  2. やるべきことを思い出し、計画する(整理)
  3. 体を動かして実行する(行動)

この3つの流れのどこかが難しいと、「わかってるのに動かない」ように見えるのです。

たとえば、

  • 「着替えてね」と言われても、“何からすればいいか”が浮かばない
  • 「おもちゃを片づけて」が、“どこにしまうのか”で止まってしまう
  • 「早くして」と言われると、焦ってさらに動けなくなる

これは怠けているのではなく、脳の処理に時間がかかっている状態です。

実行機能の発達とは?

“実行機能”とは、「やるべきことを理解し、順序立てて行動する力」のこと。
大人でいえば、「段取り力」や「切り替え力」といった能力にあたります。

実行機能は、脳の前頭前野が発達することで少しずつ育ちますが、
乳幼児期から小学校低学年ごろまではまだ未熟です。

つまり、「動かない」のではなく、
“動き出すまでの準備に時間がかかる” ということ。

声かけ例

  • 「今から着替えるね」ではなく、「まずズボンからはこうね」と一歩ずつ具体的に。
  • 「どうしたの?」ではなく、「何から始めようか?」と行動を小分けにする。

第2章:「動けない」子どものよくある4つの背景

① 言葉の指示が多すぎる

「○○して、終わったら△△してね!」と一度にたくさん言われると、
子どもの頭の中では情報が混乱してしまいます。

ポイント:脳は「ひとつのことに集中」して処理する仕組み。
2つ以上の指示が入ると、“どこからやるか”で止まってしまいます。

声かけ例

  • 「まず靴をはこう」→できたら「次は帽子ね」と、順に伝える。
  • 「全部じゃなくて、ひとつずつでいいよ」と安心を添える。

② 注意の切り替えが苦手

夢中になって遊んでいるときに「片づけて」と言われても、
気持ちの切り替えが追いつかず、“聞こえていないように”見えることがあります。

声かけ例

  • 「もうすぐ片づけの時間になるよ」と、少し前に予告。
  • 「これを終わったら片づけね」と“区切り”を伝える。

子どもにとって「終わる」は“喪失”。
大好きな活動ほど、「やめる」には時間がかかるのです。

③ 感覚や身体の準備が整っていない

体の感覚が鈍い、あるいは過敏な子は、
“動く準備”を整えるのに時間が必要です。

また、脳と身体の協調(ボディイメージ)が未発達だと、
「動き方がわからない」ために止まってしまうこともあります。

声かけ例

  • 「手をこうして持ってみようね」と体を一緒に動かす。
  • 「ママと一緒にやってみよう」と共同行動でスイッチを入れる。

④ “失敗したくない”気持ちが強い

「早く」「ちゃんとして」と言われることで、
“うまくできない自分”を意識してしまい、不安で動けなくなるケースもあります。

特に慎重なタイプの子は、“失敗するくらいなら動かない方がいい”と感じることがあります。

声かけ例

  • 「ゆっくりでいいよ」
  • 「間違っても大丈夫、ママが一緒にやるよ」

安心感が“行動のスタートボタン”になります。

第3章:「動き出せる」ようになる家庭での工夫

① 行動を“見える化”する

頭の中だけで行動を整理するのは難しいため、
「見てわかる」工夫を取り入れましょう。

  • 朝の準備表(イラスト・写真付き)
  • 「やることカード」を順に並べる
  • 完了したら“できたシール”を貼る

声かけ例

  • 「次は何だったかな?カードで見てみよう」
  • 「ひとつできたね、次のカードに進もう」

これにより、頭の中の混乱が減り、“次に進む力”が育ちます。

② “始めやすい環境”をつくる

「動き出す」にはエネルギーが必要です。
見えない不安や迷いを減らすだけでも、行動のハードルが下がります。

  • 片づける場所を明確に(箱にラベルや写真)
  • 朝の支度道具を1か所にまとめる
  • 支度の順番を色で示す(青=着替え、赤=歯みがき)

声かけ例

  • 「青いところからやろう」
  • 「ここにあるもので準備できるね」

③ “スタートの合図”を一緒に決める

行動を始めるきっかけを“儀式化”するのも効果的です。

  • 「3・2・1・スタート!」と声を合わせる
  • 手をタッチして合図
  • 好きな歌の一節を口ずさんでスイッチを入れる

声かけ例

  • 「スタートサインいくよ!」
  • 「いっしょに3・2・1して始めよう」

脳は「楽しさ」を感じると行動が起こりやすくなります。

④ “できた!”を丁寧に伝える

行動できた瞬間をしっかり認めることで、
脳の「やる気回路(報酬系)」が活性化します。

声かけ例

  • 「今、自分で動けたね!」
  • 「少し時間かかったけど、ちゃんとできたね」

「動くまでの時間」も、その子にとっては努力のプロセスです。

第4章:園や学校との連携のヒント

「動けない」「指示が通らない」ことは、家庭だけでなく集団の中でも起こります。
先生に伝えておくとサポートしやすくなります。

伝えておきたいポイント

  • 一度に複数の指示があると動けなくなる
  • 行動の見通しを持てると落ち着く
  • 行動を促すときは「今やること」を一つずつ伝えてほしい

家庭と園・学校で同じアプローチを取ることで、
子どもが“混乱しない環境”を整えることができます。

第5章:“行動の準備”を育てるステップ

  1. 理解する力を支える
     → 言葉だけでなく、絵・動作・ジェスチャーも使う。
  2. 計画を立てる力を支える
     → 「何を」「どの順番で」するかを一緒に考える。
  3. 行動を始めるきっかけを支える
     → スタート合図・声かけ・身体サポートなど。
  4. 完了と達成感を支える
     → 「ここまでできたね」と見える形で喜びを共有。

この“4つの支え”を繰り返すことで、
子どもは少しずつ「自分で動ける力」を身につけていきます。

第6章:相談を検討してもよいサイン

もし、次のような傾向が強い場合は、専門機関に相談してみましょう。

  • 呼ばれてもほとんど反応がない
  • 日常生活の多くで行動の開始に極端に時間がかかる
  • 指示やルールを理解しても、実行が困難
  • 強い不安やパニックを伴う

発達支援センターや療育センターでは、
実行機能・注意機能・感覚処理などの発達を丁寧に評価し、
「その子に合った動き出しの支援方法」を提案してもらえます。

最後に:“動かない”は「がんばっている」のサイン

子どもが“動けない”のは、怠けているからではなく、
「どう動いたらいいかを一生懸命考えている」から。

  • 行動のステップを小さくする
  • 指示を見える形で示す
  • スタートを一緒に切る
  • できた瞬間をしっかり認める

それだけで、子どもは「自分でできた」という実感を持てるようになります。

子どもが止まって見えるその瞬間にも、
脳の中では“動くための準備”が進んでいます。

焦らず、急がず、寄り添いながら。
その小さな一歩が、“自分から動ける力”へと育っていくのです。

療育コンサル 中山 のぞみ
D&I株式会社取締役兼療育センター長
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